人手不足、低賃金、雇用の非正規化——。これは日本やシンガポール、マレーシアなど、先進国・新興国問わず多くの国が抱える「ブルーカラー人材」に関する課題である。一方、東南アジアでは若年層の労働人口が豊富で、十分な職業訓練を受ける機会さえあれば、高いパフォーマンスを発揮する人材が多く存在する。

この「需給のミスマッチ」にビジネスチャンスを見出し、アジア全体で革新的なサービスを展開しているのが、**Ayasan Holdings（アヤサン・ホールディングス）**だ。

■ タイ発、東南アジア全域へ。ブルーカラー人材の総合プラットフォーム

Ayasanは2013年にタイ・バンコクで創業したスタートアップだ。当初は「家政婦・ベビーシッターのマッチングサービス」として始まったが、その後ベトナム、インドネシア、ラオスなどへ展開。現在では5カ国で事業を展開し、累計マッチング件数は15万件以上、登録人材数は2万人以上に達している。

同社の最大の特徴は、単なる“人材紹介”ではなく、トレーニング・管理・マッチング・評価までを一貫してデジタルで提供する「統合型プラットフォーム」を構築している点だ。マッチングのスピード、品質、顧客対応力において他のローカル業者を圧倒し、日系企業を含む外資系企業、富裕層家庭を中心に高い支持を獲得してきた。

■ クロスボーダー人材派遣：日本・シンガポール・マレーシアへ

Ayasanが今、最も注力しているのがクロスボーダー人材派遣事業だ。これは、インドネシア、ベトナム、ラオス、カンボジア、フィリピンといった送り出し国から、日本やシンガポール、マレーシアなど人材不足に悩む国々へ、技能実習生・特定技能労働者・ハウスキーパー・介護スタッフなどを送り出す取り組みである。

• 日本では、外国人労働者数が2023年末時点で約200万人を超え、そのうちの約30万人が介護・建設・農業などの“特定技能”に従事している。

• シンガポールでは、家庭内ヘルパーの75%以上が外国人労働者であり、今後も増加傾向にある。

• マレーシアも同様に、製造・清掃・小売業などで常時100万人を超える外国人労働者を必要としている。

Ayasanは、これらのニーズに対応すべく、2025年から本格的な越境人材派遣事業の開始を予定。既にインドネシアとベトナムで育成されたスタッフ数百名規模のデータベースが整備されており、日本語・英語・介護技術などの訓練カリキュラムを独自開発。現地パートナーや政府機関と連携しながら、法令遵守のもとで人材供給を進める計画だ。

■ 単なる派遣で終わらせない「キャリアアップ型プラットフォーム」へ

Ayasanが目指すのは、単に人を派遣するのではなく、「人材のキャリアアップを支援し続けるプラットフォーム」の構築である。現場経験に応じてスキルランクを可視化し、研修やEラーニングの提供、給与のインセンティブ設計までをシステム化。これにより、働き手のモチベーションを維持し、長期的な定着とパフォーマンスの向上を実現している。

さらに、AIによるスタッフ評価分析、GPSを活用した勤怠管理、顧客からのリアルタイム評価システムなども導入。ブルーカラー業界にありがちな「曖昧な評価」「不透明な報酬体系」といった問題をテクノロジーで解決している。

■ 成長の可能性：アジア発の“Blue-Collar Tech”ユニコーンへ

Ayasanの現在の売上高は非公開だが、関係者によれば2024年時点で年間取引件数は6万件を突破。1件あたり平均単価が約50ドル（清掃・介護サービスなど）と仮定すると、年商は300万ドル（約4.5億円）を超える水準にあると見られる。

今後、クロスボーダー派遣とB2Bの法人清掃契約が加わることで、2027年までに年商1,000万ドル超え（約15億円）を目指す中期戦略が描かれている。

さらに、Ayasanの強みは人材の「囲い込み力」だ。東南アジアではブルーカラー労働者の“ロイヤルティ”が低いことが課題とされているが、Ayasanは継続的な教育支援と収入向上の仕組みによって、離職率を大幅に改善。こうした人材基盤こそが、同社の最大の資産である。

■ スタートアップから社会インフラへ。Ayasanの未来

今、東南アジアにおいて“人材”は単なる労働力ではなく、“国家成長の鍵”として注目されている。Ayasanが掲げるビジョンは、そのど真ん中にある。

「“信用される働き方”を、アジアのブルーカラーにも」

その言葉の通り、Ayasanが創り出しているのは「仕事を探す人」と「人を探す社会」の架け橋だ。10年後、Ayasanがアジア全域で最も信頼されるブルーカラー・プラットフォームとなり、ユニコーン企業として世界に名を連ねる日も、そう遠くはないかもしれない。